良い多様性と悪い多様性がある(同調圧力が多様性を妨げる)

                                                              感染急拡大のボリショイ劇場(末尾に記事)

今週のニュースはあまりにも変化が多くその情報を全部読み解いていたらとても時間が間に合わず頭が混乱するばかりだった。そこで進路を変更して別の視野から物事を見ようと試みた。

行き当ったのが「複雑系の経済学」だった。500ページ余りの本を暇つぶしのつもりで流し読みした。しかし私の理解力が貧弱なせいか、よくわからないことばかりで、部分的に参考になった点だけを傍線を引っ張った行為で終わった。

更に行き着いたのは例の古いメモ帳だった。そこには若い時に読んだ読書歴から断片的に気づきをメモした、つながりも思想性も何もないバラバラの、正に断片だった。

これを拾い読みしていたら、最初に述べた先週からの「激変する世界の情報」と「多様性の世界」と云うテーマとの結びつきのヒントが幾つか見つかった。メモの引用元が分かるものも、どこから引っ張ってきたのか分からないものも、種々雑多に混在していた。

元はと云えば、冒頭の「激変する世界の情報」なのだから、これについて注目点だけでも書き連ねておく。

10月30日の東京新聞の記事は見出しだけ拾っても激変する世界そのものだった。「コロナWatch一週間」には世界の感染者数・死者数や日本のGoToなどの状況などグラフ・図表で克明に記されていた。米国の感染者が28日までの累計で8,611,256人・死者数224,000人で、ヨーロッパの第2波猛威についても国別に詳細が記されていた。

フランスの都市封鎖、イギリス・ドイツ・イタリア・スペイン・オランダなどの夜間外出禁止や夜間営業禁止などの情報も深刻さを表していた。

日替わりの変化にはとてもついていけず、感染対策は混乱の極みだ。

米国大統領選でも混迷ぶりは同様だ。現地記者の報告でも、「バイデンが勝利するのは確実だ」と云ったかと思うと最後には「トランプのウルトラCが起こる可能性は十分あり、まだ予測は難しい」などと保険をかけるような発言をしていた。

一方、日本ではヨーロッパとは対照的に、GoToキャンペーンや入国制限の緩和などが平然と行われている。邪推かもしれないがオリンピック強行開催のための布石かも知れない。見えてくるのはIOCとJOCがお互いに中止の決断を擦り合っているようだ。莫大な損害が発生するのが見えているので双方で責任回避しあっているようにみえる。

多様性を認めない専制的政治を進めながら「多様性が大事」と発言する、ご都合主義も混乱をまねいている。混乱を多様性にすり替える風潮を許す社会は民主主義とはとても言えない。


次に例のメモ帳の断片と「複雑性の経済学」にでてくる「多様性」の解釈の関連を探ってみたい。

● 狐がライオンに「あなたは一回に一頭しか子供を産まない」と非難した。すると雌ライオンは「確かに一頭です。でも、それはライオンの子ですよ」 と答えた。数だけが値打ちではない、質の方が大切だという教訓でした(イソップ物語より)

● この小説は時代と政治権力の中で収容所生活を余儀なくされた囚人たちの日常を描き、人間において尊厳と卑屈、自由と束縛、信頼と裏切り、などが如何に共存しているかを語っている(スターリン批判)

● 私は職業を転々とした。それは私があらゆる事柄のくだらなさと無益さを、探照灯で照らし出すように人々に見せたかったからである(ヘンリーミラー)

● 事実と虚構が混然と一体となっている。感情は私自身のものだが、出来事は、必ずしも起こった通りには語られていない(モーム「人間の絆」)

● それはあらゆる時代を通じてもっともよい時代であるとともにもっとも悪い時代であり、賢い時代であるとともに愚かな時代でもあり、光明の季節であって、また、暗黒の時節であり、希望の春であって、また、絶望の冬でもあり、われわれの前にはあらゆるものがあるが、また、なに一つなく、---要するにその時代は今の時代と非常によく似ている。権威筋は何時でも最上級の表現を用い、決して譲らない(出所不明)

以上がメモの断片で今回のテーマに参考になりそうなものをピックアップした。

「複雑性の経済学」では分散化を助ける技術動向を取り上げ、テレワークの拡大はその仕事を組織の内部に取り込んでおく必要は少なくなり、通信の発達と情報処理装置の低廉化、小型化が独立した仕事の範囲を拡げ現在の自由業がそうであるように、個人が小規模事業者化していくと指摘している。

その一方で、規模の経済がはたらく分野では仕事の平準化などの理由から、重厚長大の時代は去ったと云われながら装置産業では巨大装置の優位さは残されていく。従って規模の多様化は依然として保たれると云っている。

1.異質な主体間の分散的相互作用

2.経済全体の管理者の不在

3.絡み合う交叉的ヒエラルキー

4.進化する主体による継続的適応と学習

5.不断の新規性

以上が「多様性の経済学」の原点として紹介されている。この分野自体が複雑で学問として発展過程にあり、異論も多数あるようだ。


最後にこの課題はまとめ難いのだが、まとめに適したコラムの紹介をもってこれに代えたい。(今回の課題に関連ある部分は太字とした)

「同調圧力」水島広子、精神科医・医学博士・正田家と姻戚関係・元衆議院議員2期、(以下は2020年10月31日東京新聞夕刊「紙つぶて」から引用)

最近、「同調圧力」という言葉を聞く機会が増えたように思う。同調圧力とは、多数派とは異なる意見を持つ少数者に対して、多数意見に迎合させようとするプレッシャーのようなものを意味する。本当はやりたくないのに、いじめられるのが嫌で、他の生徒と同じように悪事を働くはめになる、というようなケースは案外知られている。

昨今、同調圧力を強く感じるのは、例えばコロナ禍におけるマスクの使用である。屋外でマスクをしていなかったからと大人に怒られた小学生の例も聞いた。なぜ小学生を怒る必要があったのか、科学的根拠を述べられる人はいないと思う。

それ以外でも、同調圧力は、理屈でなく感情に基ずくもののように私は思っている。そしてその感情は「怖れ」のように思う。「みんなが一緒でないと怖い」のではないだろうか。

同調圧力は、もちろん、多様性の尊重を妨げる。私は2000年に衆議院議員になる前から選択的夫婦別姓を実現する活動をして、ずいぶんいろいろな人と議論したが、「なるほど」と思える反対意見に出会たことがない。最近は、議論の機会が設けられても反対派が逃げ出す現象も多い。

同調圧力をかけたり、同調圧力に負けたりしないようにするには、健康な自己肯定感が必要だと思っているし、少なくとも自分は同調圧力と無縁な人生を歩みたいと思っている。


追記:NHKWEB 国際ニュース

ロシアでは、先月以降、ことしの春を上回る勢いで新型コロナウイルスの感染が拡大し、今週に入って1日の感染者数が初めて1万7000人を超えたほか、27日から28日にかけては、1日の死者数がこれまでで最も多い346人に上りました。

感染拡大の中心となっている首都モスクワでは集団感染が相次ぎ、27日には、クラシックバレエの殿堂、ボリショイ劇場の代表が、劇場で働くダンサーや技師など124人が感染したことを明らかにしました。

また26日には、ボロジン下院議長が、下院で定数の2割以上にあたる91人の議員が感染し、1人が死亡したことをプーチン大統領に報告しました。


 

リーマンショックとの相似点と相違点

厚生労働省資料より

たまたまステイホームを機会に書類の整理をしていたら、2008年のスクラップブックが見つかりました。当時の新聞の切り抜きを見ていたら2008年1月・2月の記事の切り抜きが出てきたのです。リーマンショックがマスコミの話題となったのはちょうどこの頃からだったようです。

1月5日付けの新聞には1面に「NY株一時200ドル安、米失業率5%に悪化」の見出しがあり、その下に東証急落の小見出しが目につきました。「東京株式市場は今年初の取引となった4日の大発会で日経平均株価が7年ぶりに前年末を下回り、大発会では過去最大の下げ幅を記録した」と書かれていました。08年2月9日には内閣府の調査の発表があり、「街の景況感旧冷却」「現状判断、下げ幅最大4.8ポイント」の見出しが躍ったのです。

その後、世の中が呆然自失となり、具体的に手が打てたのはようやく9~10月に入ってからだったようです。9月17日は「日米欧、35兆円供給」「リーマン破綻、市場安定へ協調」の見出し、10月20は「米で緊急サミット」「G8や新興国」との記事、サルコジ大統領は「世界的危機には世界的な解決策が必要だ」と、危機の震源地ともいえる米ニューヨークでの開催を提案、両大統領は協議の結果米国での開催を決めた。緊急サミット後も、世界の他の指導者も交え連続サミットを、欧州などでの開催も視野に開くことを声明した。

世界銀行は12月10日、09年の東アジア全体の実質国内総生産(GDP)が、08年の前年比5%~7%に低下するとの報告をまとめた。同銀行のビクラム・ネル経済政策担当局長は「金融危機は途上国の貧困層にとっては、”生命の危機”でもあると強調した。

以上が新聞の切り抜きからたどったリーマンショックのながれです。

後始末は日本では意外な方向に向かったのです。2006年小泉政権は構造改革を掲げ「改革には痛みが伴うもの」とし、新自由主義的「改革」に舵を切ったのです。その後政権が変わっても、一貫して新自由主義政策だけは変わりませんでした。


生活者、家計セクターから生産者、企業セクターへの所得移転

長期に及ぶ預金ゼロ金利、雇用・労働の破壊による賃下げ、結果としてより深刻な家計所得の削り取り、すなはち家計分野からの膨大な「所得移転の構造」は改革に向かうどころか逆に景気回復は名ばかりで、一層深刻化し、構造化された。

景気回復の証左として政府のあげる企業業績向上の内実は肥る企業部門、細る家計部門と同意なのであり、従って底の浅い国内消費市場に好転の兆しは見えない。景気回復が逆に国内需要の足腰を挫き、経済の対外依存度を一層高めるという悪循環を生みだした。これは持続可能な回復とはいいがたい。

大企業の異常なほどの増益は、中小企業や家計部門への恩恵の波及効果を遮断したからこそもたらされたものであり、トリクルダウンの神話は見事に破られた。新自由主義政策のもたらす「矛盾をはらんだ改革」の帰結が貧富の格差拡大であった。

分断・対立・競争を原理とする「競争セクター」に変え、連帯・参加・協同を原理とする「共生セクター」に軸足を移す新たな社会への模索が始まる。

(この文は2008年の新聞切り抜きファイルの中に見つかったもので、私の鉛筆書きのメモでした。12年後の現代にも通ずるのではないかと思いここに転載しました)


リーマンショックとの相似点は低金利政策は大企業やお金持ちをますます肥やし、中小企業や中産階級を含む弱者がますます細る傾向。トリクルダウンは幻想、「新自由主義」「改革」は弱者切り捨てにつながり消費の減退を招き景気回復を遅らせ長引かせる。

新型コロナウイルスはこの傾向を増幅させました。トップの画像はここ一週間の変化を表し、特に欧州の感染急増は目を疑うものがあり、日本のマスコミはほとんどこの状況を軽視している状態です。現地の危機感は想像に絶するものがあります。

バイデン氏は最後の候補者討論会で「現在も一日平均6万人が感染し、1000人が死亡する現実」を警告しました。その後27日の報道では、一日で8万人の感染急拡大が報じられました。フランスの1日の感染者は42000人を超え、累計では104万人と急増しております。一方スペインのサンチェス首相は23日のテレビ番組で「実際の累計感染者数は既に300万人を超えている」と発言、正しい集計ができていなかったと反省を表明しました。

ジュネーブ発の共同によれば、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は23日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症が欧州などで急速に拡大している状況を巡り「パンデミックは特に北半球で重大な岐路にある」と述べ「いくつかの国は危険な道を進んでいる」と懸念を示しました。

更にテドロス氏は「発展途上国では酸素吸入用の酸素ボンベの供給が5%~20%しかまかなえていない」と危機感を表しました。

本部がスイスのローザンヌにあるIOCはこの異常を身近に感じ取っているはずです。

すべてを五輪に賭けていた日本政府は、もしIOCが中止を決定したら、すべての経済政策が破綻してしまうほどの打撃を受けることになるでしょう。

「自立・共生・公助」が一層むき出しになってくるでしょう。公助に頼れなくなり生活は一層苦しくなります・

今こそ、分断・対立・競争を原理とする「競争セクター」に変え、連帯・参加・協同を原理とする「共生セクター」に軸足を移す新たな社会へ転換しないと再起不能となるのではないかと心配です。